インタビュー

【 特別インタビュー 】
AIで事故なき社会に 活路は〝情報〟にあり

2017年10月03日
知識創造工房 ナレッジ・ファクトリー 林 光 代表
日進月歩で進化する技術は社会をどのように変化させ、物流をどう変えていくのか。未来学者の林光氏は、AI(人工知能)、IoT(物のインターネット化)、自動運転といった最新技術の動向を踏まえ「将来、物流企業は(運ぶことそのものよりも)新たな枠組みをつくる立場に立つ必要がある」と話す。30年後の未来を大胆に予想してもらった。
――注目する技術は。
林 AIだ。従来は単純労働を代行させ、人間はより高度で創造的な仕事をすればよいとされてきたが、事情が変わってきた。進歩の早さが予測以上で、人間の能力を上回るシンギュラリティー(技術的特異点)が起こるのは2040年前後とされていたのが、すでに一部で創造的な仕事をするAIも登場している。
創造的領域も技術で
――例えば。
林 デザイン。幾何学的で単調なものならばパターンは限られ、条件を与えればAIでも作ることができる。音楽も小説も同様。音楽ならAメロ、Bメロ、サビと分解し構造を照合できるようにすればいい。小説は難易度が上がるが、欧米などの海外小説に見られる主人公の外見やシーン背景など設定の細かい小説を分解し、つなぎ合わせて作る試みがある。
――なぜできるのか。
林 インターネットを活用する。人間はネット上にある膨大な量の断片的情報を収集し、組み合わせ決定的情報を得る。AIは同じことをより優れた処理能力で行い、過去の情報と照合、現在存在しないものを発見できる。最近の音楽業界では作曲後に、類似の曲がないか確認作業があるが、AIの方が効率的だ。
――どう進化する。
林 これまでは人間が与えた情報を基に判断を行ってきた。今後、ネットやビッグデータと同期させることで、AI自ら情報を収集・パターン化し判断するようになる。
医者も弁護士も失業
――なくなる職業も。
林 AIがより実用的になれば、まずなくなるのは弁護士。事件に対して、過去の判例と六法を照らし合わせ法律をどう適用していくかを考える仕事は、判例と六法を内包したAI向けのデータベースを作ればAIの方が正確な判断が可能。医師もなくなる。患者の病気特定の判断は医師自身の経験や勘に大きく依存するが、AIは患者の詳しい状態を診察し、過去のデータと照合してより精度の高い治療を行う。
自動運転で渋滞ゼロ
――30~50年先は自動運転技術が完成済み。
林 自動運転社会では車の動き全てをAIとシステムがコントロール。交通事故も渋滞もなく、信号機も要らない。システム上、人間が運転するとミスが起こるため、人間は運転できなくなる。
――頭にICチップ。
林 多少SFチックだが、さまざまな情報を入れたICチップを人体に埋め込めば、飲食店などで並ばず出口を通過するだけで会計が済んでしまう。店舗は人員を他の業務に振り向けられる。
――AIが人間を管理する社会が到来する。
林 そこでは人間は食事し娯楽に興じ、ただモノを消費する。所得は、現在欧州の一部の国で実験されているように政府が補償し、財源は消費されたお金をプールし、再び平等に配布して持続させていく。
新たな枠組み創造を
――物流の現状をどう見る。
林 モノの取引の多くが電子的に行われる中、物流だけ、いまだに人が介在していることに、違和感がある。
――違和感とは。
林 例えば宅配で、午後2~4時を指定したにもかかわらず午後1時に届くことがある。近隣まで来たついでにという場合がそうだが、午後1時に受け取れない理由があり別の時間を指定したのに、人間の判断でシステムが無意味になってしまっている側面がある。
――どうすればいい。
林 作業を可能な限り機械化・省力化し、最後には電子化する必要がある。規模を問わず、物流企業各社でできることがあるはず。物流センターでは全ての荷物にICタグ取り付けを徹底し、どこに荷物があるのか把握できるようにすれば探す手間が省ける。トラックの配車、配送ルート選択にはAIを利用する。
価値はあちこちに
――ドローンは。
林 自動運転の実用化以前に利用を進めていくべき。ドライバーが足りない以上、路上をトラックで走り運ぶ方法は限界に突き当たる。ドローン配送の試みは始まっている。半面、肝心のドローンは既存メーカーが造るものに頼っている。利用推進には、現場を知る物流企業自ら開発に取り組むことが欠かせない。
――物流企業が生き残る道はどこに。
林 機械化を進めつつ輸送に加え、何らかの価値を提供できるようにすること。例えば全国に拠点を持つ企業であれば、各地の名産品をインターネットで購入できるサービスを提供する。中小企業でも、配送と合わせ地域の高齢者の見守りサービスを提供できないか。
――手持ちの情報を活用する時代。
林 物流企業は自社が何を運んでいるのか改めて知ることが重要だ。小売店の物流を担う企業は商品の仕分け作業を通じて、各店舗の商品需要の情報を入手できる。こうした情報を基に荷主メーカーに新しい提案やサービスを行えばいい。
――業界の30年後は。
林 モノは電子化され人の手で運ばれなくなる。本、音楽、映像はかつては保存媒体として、手に取らなければ視聴できなかったが、現在では情報だけを取り出せ媒体は不要になった。今後、あらゆるモノが電子化できれば、商品の設計データを購入し自宅の3Dプリンターで印刷して商品を手に入れるシステムが登場するかもしれない。
――大変だ。
林 物流企業も優秀なエンジニアを確保し研究を進め、新たな枠組みをつくる側に立つことを目指してはどうか。
記者席 手書きと電子書籍
「推理小説を頻繁に読む」。取材の合間に度々、話題に上がったのは書籍。相当な読書家で、記者に本にまつわる知識を披露してくれた。小・中学校などでなじみ深い読書感想文コンクールには、電子書籍の感想文では応募できないそうだ。理由は「電子書籍の場合、誤字や表現の修正が容易なため、応募者の感想文が、いつの修正が反映された文章を基に書かれたものか判別できず、公平な審査が困難になるから」。
また林氏は「書籍でも、手書きの作品と、キーボードで文字が打ち込まれ最初から電子書籍として作られた作品では文学としては別物」とする。今後は手書きでもキーボードでもなく、「脳内で思い浮かんだ内容が直接、文章になった書籍も登場することになる」。