1●国交相による働き掛け制度 創設3年 64件実施 取引是正へ貴重な手段に  国土交通相による、荷主への働き掛け制度が着実に成果を上げている。2019年7月の開始以降、約3年間で働き掛けを実施した件数は60件を超え、今年には働き掛け後も恒常的な荷待ちを続ける企業に「要請」という一歩踏み込んだ対応も行った。一方、行政が動くには運送企業の情報提供が不可欠で、取引環境改善にはトラック業界の行動が鍵になりそうだ。  国交相による働き掛けは、18年成立の改正貨物自動車運送事業法で新設された制度。長時間の荷待ち、依頼にない付帯作業など、運送企業の法令違反の原因となる恐れのある「違反原因行為」の疑いがある荷主に、法令順守には配慮が重要と理解を求める。  国交省はこれまでも荷主勧告制度を中心に対策を講じてきたが、運送企業の行政処分が前提となる。これに対し、働き掛けは処分に関係なく荷主に対応を求めることができるのが違いだ。運送企業の情報を精査した上で行う荷主への訪問時は、経済産業省、農林水産省などの関係省庁も同行し、改善計画を報告させて以降は大半のケースで違反原因行為が改善されているという。 燃料価格転嫁でも有効活用  国交省によると、9月末までに行った働き掛けは計64件。荷主の違反原因行為では長時間の荷待ちが最も多く、全体の50%を占めた。依頼にない付帯作業(12・7%)、過積載(10・8%)なども多かった。燃料価格高騰が課題となる中、コスト上昇分の転嫁でも制度を活用しており、国交省に寄せられた35件の相談のうち、7件で働き掛けを展開。東北、関東、中部、中国、九州運輸局管内で、運送企業との交渉に応じるよう荷主に理解を求めた。  また、8月には中部運輸局管内の製造業の発荷主に、違反原因行為を疑う相当な理由がある場合に出す「要請」も実施。この発荷主は昨年1月、恒常的な荷待ちを理由に働き掛けを受けたが、その後も運送企業から改善が進んでいないとの申告があり、調査の結果、情報との整合性を確認したことから要請に踏み切った。今後も改善がない場合は勧告し、社名公表する方針で、「荷主にも通告している」(国交省)。 運送企業の情報提供が焦点  一方、働き掛けを通じて取引環境を改善するには、運送企業がどこまで情報提供できるかが鍵を握る。国交省は19年、荷主による恒常的な荷待ち、非合理的な到着時間の設定などの情報を集めるため、ホームページ上に意見募集窓口を設置。これまで数多くの情報が寄せられているが、相談者が分からなかったり、問題の内容が曖昧だったりし、調査を行えないケースもあるという。  このため、今年4月からはトラック協会と連携し、適正化事業実施機関が運送企業を訪問時、違反原因行為の情報を収集する取り組みも始めた。国交省は「(行政に)直接情報提供するのは敷居が高いと考える企業もあることから、連携することとした」とし、今後も適正化事業実施機関と情報を集めていく方針だ。 2●標準的な運賃 5割弱が原価計算せず 荷主交渉進展も道半ば  標準的な運賃の活用に当たり、自社運賃の原価計算を実施している運送企業が半数程度にとどまっていることが、国土交通省の分析で分かった。荷主に標準的な運賃を考慮した自社運賃を提示し交渉した企業も3割強で、運送各社で取り組みを広げるには、さらなる対策が必要になりそうだ。  調査は3月、国交省の委託を受けた調査会社が運送企業に実施。同省は標準的な運賃の届け出を行うまでに、(1)制度の理解(2)自社での運賃計算(3)荷主との交渉(4)運賃の事後届け出―の4つの過程があることを踏まえ、状況を分析した。  標準的な運賃の理解については、33%が金額や原価計算の方法など「全て理解している」と回答。「金額のみ理解している」とした企業は43%、「名称のみを知っている・聞いたことがある」とした企業は20%だった。 全ト協などと周知徹底継続  一方、標準的な運賃を活用する上で重要となる自社運賃の原価計算に関しては、「未実施」の回答が全体の47%を占め、課題が浮き彫りとなった。「実施済み」は32%、「計算中」は21%だった。今月18日に開かれたトラックの取引環境と労働環境改善を検討する中央協議会では、委員から「原価計算ができないと、荷主との交渉もできないのではないか」という指摘も。国交省も同様の認識を持っており、全日本トラック協会と協力しながら周知していくとした。  荷主との交渉は、「標準的な運賃を提示して交渉した」企業が17%、「標準的な運賃を考慮した自社運賃を提示して交渉した」企業が35%だった。このうち、「荷主から一定の理解を得られた」企業は33%。全体の25%は「理解を得られなかった」と回答した。「交渉中」は40%だった。  また全国の標準的な運賃の届け出率が8月末時点で49・9%にとどまっていることを受け、18日の中央協議会では、委員から「届け出率の低いエリアではトラック協会非会員が多く、行政の取り組みを徹底してほしい」との指摘もあった。国交省は「ホワイト物流」推進運動セミナーなどを通じ、荷主への周知・浸透を図っていく方針だ。 3●全ト協 高速利用促進策 拡充を 公明議員懇話会に要望  全日本トラック協会(坂本克己会長)は18日、公明党トラック議員懇話会(北側一雄会長)に対し、ドライバーの労働時間短縮や働き方改革、輸送の生産性向上に資するとして、高速道路料金のさらなる引き下げと休憩・休息施設を含む道路環境の整備・充実を要望した。  全ト協は、業界からの最重点要望事項の一環として、実質50%の大口多頻度割引の拡充をはじめ、普通区間・大都市近郊区間・海峡部など特別区間の3つの料金水準引き下げ、長距離逓減割引・深夜割引の拡充を提示。さらに重要物流道路の拡充、暫定2車線区間の4車線化、ミッシングリンク(未開通区間)の解消、サービスエリア・パーキングエリアなど休憩・休息施設、中継物流拠点の充実も盛り込んだ。  坂本会長は「高速道路の利用は(運送各社の)安定的で確実な輸送と、交通事故や環境負荷の削減につながり、ドライバーも安心して運転に集中できる」と強調。とりわけ大口多頻度割引については制度の恒久化を強く求めた。  要望には、全ト協道路委員会を担当する寺岡洋一副会長、御手洗安常任理事らも同行。寺岡副会長は、残業規制強化や改正改善基準告示の施行などに伴う2024年問題へ着実に対応するためにも、高速道路の積極的な活用が鍵を握るとした。 激変緩和措置再延長も求め  全ト協は、道路関連の項目に加え、12月末に期限を迎える燃料油価格激変緩和措置について、現行水準を維持した上でのさらなる延長を要請。改正貨物自動車運送事業法の柱で、24年3月までの時限措置である荷主への働き掛けと標準的な運賃の告示制度についても、延長を踏まえた普及・促進への支援を求めた。 4●空飛ぶクルマ 米企業が型式申請 海外製品では初  トヨタ自動車などが出資している、米国の電動旅客機開発企業ジョビー・アビエーション(本社・米カリフォルニア州、ジョーベン・ビバートCEO)は18日、電動で離着陸できる航空機「空飛ぶクルマ」を日本向けに量産するための型式証明を国土交通省へ申請した。海外製品の型式申請は初。2025年に開催される大阪・関西万博での実用を目指す。  空飛ぶクルマは、小型の電動航空機で、ドローンやヘリコプターのように地面と垂直に離着陸し、モノや人を運べる。ジョビー社が型式申請したのは、パイロットを含め5人乗りの機種。6つの電動プロペラが付いており、寸法は胴体の長さが7・3メートル、翼の幅が10・7メートル。航続距離は約240キロメートルだ。  型式申請は航空法が定める機体の設計・構造、部品の安全基準、騒音の基準に適合しているか審査を受けるために必要で、審査は機体の開発と並行して数年かけて行われる。その後、飛行試験を実施し国が証明書を発行すると、ジョビー社は量産が可能になる。物流企業がユーザーとして機体を運航する場合は、機体の傷の有無を確認する「耐空証明」の取得が必要になる。  小型電動航空機の型式申請は、昨年10月末の物流ドローン開発企業スカイドライブに続き2件目。国交省は、山間部や離島向け物資輸送の負担軽減、災害時の支援物資輸送での活用を目指し、2018年8月から官民協議会で検討してきた。 5●阪神港 ゲート通過「平均9秒」 CONPAS試験運用  阪神港(神戸港、大阪港)を管理する阪神国際港湾は、国がコンテナ物流の効率化で開発した新・港湾情報システム「CONPAS(コンパス)」の試験運用を大阪港夢洲コンテナターミナルで行った。トレーラー1台当たりのコンテナターミナルゲートの受け付け手続きにかかった時間は平均9秒で、現行の運用と比べ約9割短縮できた。  大阪港での試験運用は1月に続き2回目で、8月22日から約2週間実施した。海運貨物取扱業者11社、海コン輸送会社11社の計22社が参加し、営業コンテナ161本を搬出。1回目と比べ参加した会社数は約5・5倍、コンテナの搬出数は約10倍と規模を大きくした。  今回から予約枠を30分、60分単位で1日当たり7回に設定し細分化。待機場内ではCONPAS対応車両の専用レーンを新設し、予約確認後は優先的にゲートへ誘導した。また前回に続き、搬出を予約した上で到着するトレーラーの分散や、ICチップ付き身分証明書「P S(ポートセキュリティー)カード」による入場受け付けの他、阪神港独自のドライバー用携帯端末を生かした行き先表示などを検証した。  CONPAS対応車両はPSカードを読み取るだけでゲートを通過。処理時間はトレーラー1台当たり平均9秒だった。一方、CONPASを利用しない通常車両は、行き先指示書の受け取りもあり平均69秒要した。  阪神国際港湾は「運用が支障なく機能することを確認した」とする。参加各社からは、利便性の向上や時間短縮につながったとの感想が寄せられ、おおむね好評だったようだ。 6●物流施策大綱 物効法認定、MSで課題 標準化や消費者理解進む  2025年度までの5カ年を計画期間とする総合物流施策大綱で設定された各取り組みの目標について、初の進ちょく確認によると、改正物流総合効率化法の認定、モーダルシフト輸送量など達成に程遠い項目が多く見られた。一方、物流標準化の取り組みや、物流に対する消費者の理解は進んだ。  各取り組みの目標は、昨夏の物流大綱閣議決定時に設定。1997年の物流大綱策定以来、政府として初めてより明確に打ち出したもので、今年9月14日の有識者会合でそれぞれの進ちょくが示された。進ちょく確認は従来の行政主導ではなく、専門家や物流・荷主の業界団体を交えた会合で行った。  トラック、倉庫、海運、港湾、道路など物流に関わる分野で定められた44の目標値のうち、達成へ程遠い状況にあったのは改正物効法の認定件数。2025年度までに各100件を目標とした共同輸配送、過疎地の物流効率化は、21年度末でそれぞれ23件、14 件。どちらも20年度と比べ横ばいだった。国土交通省は「予算補助で対応を検討したい」と話す。  25年度に330件を目指す輸送網集約は22年7月時点で192件。20年度の認定141件に対し50件程度しか上積みできておらず、委員からは「物流企業や荷主に対してもう一押し必要」との意見が出た。  モーダルシフトによる輸送量については21年度時点で、鉄道が目標値より44億トンキロ少ない165億トンキロ、海運が同33億トンキロ少ない356億トンキロにとどまった。どちらも新型コロナウイルスの影響を受けたほか、鉄道では大雨による輸送障害も低迷の原因となった。  新型コロナ感染拡大は他の取り組みにも影響した。例えば、京浜港と阪神港に寄港する国際海上コンテナ船の輸送力は、世界的なコンテナ不足の影響を受け、21年11月時点で19年7月の実績をも下回った。  一方で、目標値を既に達成、または達成に近づいた項目も。その一つが物流標準化で、今年、青果物、紙加工品、菓子の分野で行動計画が示され、5カ年で3件策定の目標値を前倒しで達成した。  物流の現状や課題に対して問題意識を持つ消費者の割合も、21年度の国交省調査で88・9%となり、目標の100%まで1割近くに迫った。 7●宅配ロッカー「プドー」 設置6000カ所超え 受け取り、発送便利に  2016年から導入されたオープン型宅配便ッカー「PUDO(プドー)ステーション」の設置数が、6000カ所を超えた。22年までに5000カ所以上の目標を掲げ、鉄道駅への設置を中心に始まった取り組みは、コンビニ、スーパーなどの小売店舗、駐車場、商業施設、調剤薬局にもネットワークを拡大。宅配便をはじめ利用者の受け取り、発送の両面で利便性の向上につなげている。  12〜13日に開催されたオンラインイベント「アマゾンECサミット2022」の対談の中で、ヤマト運輸(本社・東京)の長尾裕社長が、プドーのネットワークが6000カ所を超えたことを紹介した。  同社は、顧客起点でネットワークを設計・運営しており、個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」加入者にはスマートフォンなどを通じ、荷物情報の的確な提供や受取日時・場所の指定が可能な仕組みを提供していると説明。荷物の受取場所としてコンビニ、スーパーに加えプドーを挙げた。  プドーは、16年5月に仏ネオポスト傘下の企業とヤマトの合弁会社パックシティジャパンがネットワーク構築と管理・運用を手掛ける。 非対面や発送窓口に機能を拡大  設置数は18年に3000カ所を突破。コロナ禍に見舞われた20年以降は非対面のニーズが高まる中、薬局やオンラインで服薬指導を受けた後、処方薬を好きな時間に受け取れる手段としても利用されるようになった。宅配便荷物の発送、通販商品の返品、インターネットオークション出品商品の発送窓口にもなるなど、受け取りと発送の両面に役割を拡大している。 8●働きやすい職場認証制度 活用法を動画で 全ト協青年部会が制作  全日本トラック協会の青年部会(金井健蔵部会長)は、運送各社の職場環境や労働条件改善の取り組みを見える化する「働きやすい職場認証制度」を紹介する動画を制作し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。  主に青年部会員の認証取得を促すための動画で2部構成。第1部は制度紹介編で、金井部会長と認証実施団体・日本海事協会交通物流部の谷口裕美グループリーダーが、「取得メリットが感じられない」など部会員の疑問に答えながら、制度の生かし方を解説している。  動画では、青年部会が会員を対象に行った調査結果についても触れ、「既に取得している」と回答した会員は27・6%で「今後取得予定」の53・4%と合わせて8割に。半面、19・0%が「取得予定がない」と回答。「荷主の認知度など費用対効果の面から取得の必要性が分からない」「制度をよく理解していない」「認証要件を満たすのが難しい」が主な理由だった。  これを受け、谷口グループリーダーは「分かりやすいメリットを求める声があり、国土交通省とインセンティブ(動機付け)の構築について検討を進めている」とした上で、「より多くの企業が認証を取得し、業界の内外に努力していくことを示していくことが大切だ」とした。 認証取得会員の工夫も紹介  第2部では、2020年に認証を取得した野嶋運送の野嶋利基社長(青年部会副部会長)が、休日を増やして労働時間を削減しつつ、がん保険や、休業せざるを得なくなった際の最低限の手当を導入した自社の事例を紹介した。  野嶋社長は「インフルエンザで仕事を休んだドライバーの賃金が下がったことから、生活に困らないよう最低限の保証が必要と判断した」と手当導入に至ったエピソードも語っている。  認証制度はトラック、バス、タクシーを対象に、国交省が20年にスタートした。今年度の申請受け付けは「一つ星」が11月15日まで。新たに始まった「二つ星」は12月16日に開始し、23年2月15日まで受け付ける。 9●味の素 製品外装標準化を推進 積載率8割増の効果も  味の素(本社・東京、藤江太郎社長)は、製品を輸送するトラックの積載率向上につながる外装標準化の取り組みを推進している。物流業界でドライバーや庫内作業員が不足する中、持続可能な物流の実現を目指すもので、既に一部製品の外装を見直し、積載率を高める効果を出している。  同社は昨年10月に社内プロジェクトを立ち上げ、外装サイズの集約や、賞味・消費期限などの情報を示すGS1QRコードと呼ばれる2次元バーコードの導入などを検討してきた。  外装サイズの集約では、同社製の栄養補助食品「アミノバイタルゼリー」を対象に取り組みを始めている。今年2月生産分から、外箱のサイズと1箱当たりの製品数を変更。製品を載せるT11型パレット(平面サイズ1100×1100×144ミリメートル)を含む外装全体の寸法も容量の変更に合わせ見直した。  外箱は、従来に比べ幅を75〜97ミリメートル減らした一方、奥行きは2〜10ミリメートル増やした。それに伴い、1箱当たりの製品数を30個から24個に変更。積み付け時の高さも175〜197ミリメートル低く設定したことにより、パレットの平面積載率が従来比3〜18%向上した。  これらの改善策で、トラックの荷台に製品を載せたパレットを2段積むことが可能になり、空きスペースを削減。10 トン車の積載率は製品容量を問わず高まり、特に容量180グラムの製品では、従来比約80%増を実現した。 共通コード導入も検討  賞味期限などを表示する共通コードの導入に向けた取り組みも進めている。現在は、食品メーカーごとにコードの仕様が異なり、各メーカーの製品を扱う物流拠点でも、別々の読み取り機が必要になるといった問題が起きているのが実態だ。  これに対応し、味の素は、2020年9月に公表された流通システム開発センターのガイドライン(指針)を基に、商品コードや製造日、賞味・消費期限などの情報、ロット番号を盛り込んだGS1QRコードを、外装の長側面2カ所に印字を計画。工場でGS1QRコードを外箱に印字した後に検査機で行うコード情報の確認や、輸配送を含む流通過程で発生するコード印字の擦れにどう対応するかを検討している。 10●【ことば 教えて!】▽整備士不足→低賃金、重労働で構造的問題  自動車整備士不足は、トラックドライバーと同じように、低賃金、重労働、若者のクルマ離れといった要因が指摘され、構造的な問題。  典型的な肉体労働だ。トラック整備の古い工場では、作業姿勢を楽にして効率を高めるフロアリフトや2柱リフトがなかったり、冷暖房設備もなかったりする。とはいえカッコいいしやりがいもあるはずだが、賃金が物足りない。  賃金構造基本統計調査によれば2021年、自動車整備士の年収は454万円。トラックドライバーの447万円と近く、全産業より1割弱低い水準だ。高校から専門学校へ行き、二級整備士や一級整備士の国家資格を取得した上での収入。賃金カーブが緩やかな点もドライバーと似る。  対策として近年は、外国人実習生を受け入れたり、外国人整備士を採用したりと海外の労働力で賄うケースも。社内技術コンテストのような挑戦と研さんと顕彰の場に加え、将来設計できる賃金が欲しいのは、やはりドライバーと似ている。 11●JPA アジアでパレ標準化 連盟各国の普及へ  日本パレット協会(JPA、加納尚美会長)は、アジアのパレット標準化に向けたロードマップ(行程表)を公表。2030年までに、アジアパレットシステム連盟(APSF)全加盟国が、繰り返し利用する物流容器(RTI)の循環利用に対応できる体制を目指す。国内では、さらなる物流標準化推進に向けた協議体を新設した。  ロードマップは、アジア10カ国が加盟し、加納会長が会長を務めるAPSFが9月7日に開いた総会で提案。加盟各国が独自のロードマップを作成することを狙いとし、APSF全体のガイドライン(指針)とすることを決議した。  ロードマップでは、各国内の取り組みと加盟国間の取り組みを分け、RTIの標準化と免税措置などについて提示。デジタル化を前提に、日本が推進する国際物流関連システムのNEAL―NET(北東アジア物流情報サービスネットワーク)やHSコード(輸出統計品目番号)の活用を検討していくことも記載した。  APSFは、日本で用いられている1100×1100ミリメートルのT11型パレットや、中国で利用が進む1000×1200ミリメートルのT12型パレットの普及を目指している。加納会長は「加盟国からはどうすれば広まるのか教えてほしい≠ニの声もあり、支援を進めていきたい」とする。 標準化の活動推進会を新設  また、JPAは国内での物流標準化推進に向けた協議体「活動推進会ENOGU」を新設。今月4日、会員6社の委員と事務局で初会合を行った。  国のパレット標準化施策が、利用実態の把握や、強度などの規格統一、循環システムの実現といった運用の効率化など、より現業に近い課題に照準を移していることに対応。会ではパレットの製造やレンタルシステムの開発・運用を手掛ける会員の協力を得て、物流標準化をサポートする。2カ月ごとに開く定例会で、委員からのヒアリングや視察を行っていく。  会の名称は、画材のパレットに絵の具をのせることに着想し、「協会や業界をいろいろに塗り変える」との思いを込めた。 12●ホクレン 収穫期の輸送集中抑制 一貫パレチで時短へ  ホクレン農業協同組合連合会(篠原末治代表理事会長)は、北海道から消費地向けの農畜産物や農業資材の輸送で、繁忙期業務量の集中を抑制する取り組みを推進。手荷役解消を図る一貫パレチゼーションと合わせ、トラックドライバーの労働時間短縮や負担軽減につなげている。  2015年、レンタルパレットを用いた一貫パレチゼーションを導入。貨物をパレットに積載し、発着市場での積み降ろしをフォークリフトで行えるようにした。物流の効率化だけでなく、ドライバーの労働時間を短縮させている。  以前は手作業でバラ積み・バラ降ろしを行うことが多く、ドライバーなど作業員の負担が大きかった。作業に2時間以上かかるケースもあったが、導入後は、最大で4分の1程度まで時間を縮めることができたという。  18年には、季節による物量の変動を平準化し、ドライバー不足を補う取り組みを始めた。農産物は収穫期になると市場に集中し、ホクレンが輸送を委託している運送各社は短期間で大量の貨物を運ばねばならず、負担が増大する。そこで、業務量を制御するべく、コメやでん粉など長期保存が可能な製品の在庫を事前に本州の倉庫に運び、収穫期の業務集中を回避する仕組みを構築した。「農産物は年によって収穫量に差が出るため、豊作でさらなる繁忙が見込まれる際など状況に応じて(仕組みを)運用している」(ホクレン)。 貨物鉄道の重要性訴え  24年4月に適用されるドライバーの残業上限規制を踏まえ、広大な北海道の各地から全国へ農産物を運ぶには、鉄道・内航船の利用が重要な鍵になる。だが、北海道新幹線の札幌延伸に伴い、並行在来線の函館―小樽間がJR北海道から経営分離され、廃線の危機にさらされていることが問題化。貨物鉄道の輸送力が縮減する懸念が高まる中、ホクレンは道や関連企業と連携し、貨物鉄道の重要性を社会に訴えている。  「農畜産物の安定供給を実現するには、トラック・鉄道・船・航空のどの輸送手段も欠けてはならないと考えている。持続可能な物流体制の構築に向け、(長距離輸送の改善などの)取り組みを続けていく」(同)。 13●花王×和歌山県 一部製品 海上シフト ドライバー負担を軽減  花王(本社・東京、長谷部佳宏社長)は8日から、同社和歌山工場から首都圏への製品輸送の一部を、RORO船の定期航路化を進めてきた和歌山県と連携し、海上輸送に切り替えた。トラックドライバーの長時間労働、長距離輸送の負担軽減とともに、二酸化炭素排出量削減を図る。  今回の取り組みは、同工場で積み込んだ製品をトレーラーで1キロメートル先の和歌山下津港へ運び、シャーシを切り離して、大王海運が運航するRORO船で千葉中央港まで輸送。到着後、現地のドライバーが運転するヘッドにシャーシを連結して、沼南( 千葉県)・岩槻(埼玉県)・八王子(東京都)・川崎(神奈川県)の各物流拠点へ陸送する流れ。海陸での輸送は大王海運に委託する。  モーダルシフトで片道約600キロメートルを海上輸送に転換したことから、トレーラーによる陸送距離は最短で35キロメートルに短縮。ドライバーの運転時間は最大でも片道約2時間に縮まり、日帰り運行が可能に。二酸化炭素排出量は従来に比べ年355トンの削減を見込む。 毎週土曜、他社貨物と混載  利用するRORO船は毎週土曜発の定期便として運航し、花王の製品と、大王海運が請け負う他社の荷物を混載して輸送。同船は災害時の支援物資輸送も担う計画だ。6月に和歌山市近隣の企業や運送会社と試験輸送を実施。輸送量が安定したことで実用に至った。 14●【誰もが働きやすい物流拠点のデザイン】第1回 「働きやすさ」を考える背景 京都工芸繊維大学大学院 仲 隆介 教授  かつて企業は職場の「働きやすさ」を考える必要はなかった。働く人々は「仕事はつらいもので、給料をもらうために我慢してやること」だと考えていた。だが、今では仕事に対する価値観が変わり、多くの人が「やりがいを感じながら自分らしく働き、自己実現したい」と思うようになっている。  同時に、働く空間は仕事を継続するモチベーションを左右する重要な要素になり、企業が職場の快適性や利便性を考える必要性も高まっている。本連載では物流拠点で働くドライバーや作業員、事務職員、管理者を念頭に、誰もが「働きやすい」と感じる職場のつくり方を考えていく。 日本企業は変化しなかった  平成が始まる頃まで、日本経済は絶好調だった。「ジャパン・アズ・ナンバーワン(世界一としての日本)」ともてはやされ、管理命令型の縦割りの組織構造と分担型の働き方は世界中から参考にされた。そんな中、米国や欧州の先進国では、多様な価値観と変化に応じ、新しい価値(商品、サービス)を生み出し続ける方向に進み始め、企業の組織構成や働き方を大きく転換させていた。  一方、大きな経済成長を経験してきた日本企業は何も変えなかった。今でも、多くの企業が縦割りの組織で、昭和の働き方≠している。新しい価値を生み出し続けられる組織構造や働き方へ移行するため、さまざまな試みが行われている一方で、長年続けた働き方から抜け出せずにもがいている。  また、先進国の中でも日本企業の生産性は低いと考えられている。世界と戦うためには、組織の仕組みを、生産性の最大化が図れるようにつくり直し、その仕組みに合った働き方にシフトしなければならない。物流業界も例外ではない。 知的創造空間の構築が必要  新しい価値の創造と生産性の向上を実現するにはどうすればいいのか。さまざまな手法が考えられるが、職場では社員が個々の能力を最大化しながら部署の垣根を越えて互いに連携することで、生産性を高めることができる「知的創造空間」を構築する必要がある。  近年の急速なデジタル技術の発展に伴い、あらゆる産業で業務の複雑化・高度化が進んでいる。仕事によっては、生産性向上を導く解決方法が定まっていないものもある。仕事に関連する情報を収集した上で分析・議論を行い、新しいアイデアによる創造を重ね、トライ&エラー(試行錯誤)を繰り返すことが重要になっている。  知的創造空間は、社員が自律的にデザインすることが望ましい。実際にこの10年で、仕事の内容に合わせて選択できる多様なワークプレイス(仕事空間)が急速に増えてきているのは、その証左だろう。  働きやすい職場に必要な要素は「幸せ」だ。幸せを感じている人の創造性は、そうでない人の約3倍、生産性も約1・3倍高くなるという研究結果がある。幸せな人ほど価値創造の面で成果が出せるということだ。  つまり企業は、社員が幸せ(やりがい)を感じながら気持ち良く働くことで自分の能力を高め、仲間と協力しながら組織の知的生産性も最大化できる職場環境を構築する必要がある。ここで言う幸せのポイントは、社員が自律的に自分の働き方をデザインし、環境を自ら選択しながら働くことと言える。詳細は連載の中で改めて説明したい。  働きやすさは、「働く人」「働き方」「働く環境」の3つの要素で構成されている。次回からは、働きやすさという視点を頼りに、物流拠点での3つの要素をひもといてみたい。 (略歴)  なか・りゅうすけ=2002年京都工芸繊維大工芸科学研究科博士(学術)。1984年東京理大助手、96年米マサチューセッツ工科大客員研究員、98年宮城大助教授、2002年京都工繊大助教授、07年より現職。専門は企業のオフィスデザインなど。 15●【物流プラットフォーム再構築の時】第69回 システム的思考(4) 前提条件は変わる、変えられる 増井 忠幸 東京都市大学名誉教授  システムは「要素」と「関係」の集合であり、人工システムには自然システムにない「目的」がある。目的の達成に必要な機能に関係する要素を選定し、諸要素をいかに関係付けるかがシステム設計だ。従って、関連する要素のうち、制御可能なものがシステム要素となり、他は「環境(条件)」となる。  システムを設計する上で、環境は与件(前提条件)だが、社会や経済、政治の変化が激しい現在、環境は変化する。環境変化をどこまで想定してシステムを設計するかが重要であり、システムのしなやかさ(レジリエンス)を左右する。平時ばかりでなく、自然災害などを想定し、中長期的にはエネルギー転換や脱石油といった環境問題の将来に対応可能でなければならない。  まずは、目的を設定した上で、現状を分析しシステム要素を選定する。この作業はシステムの環境を設定することにもなる。ここで注意すべきは、条件と考えているものが、本当に変えられないのかを十分に議論すべきということだ。従来の方法や条件は変えられないという思い込みもよく見受ける。  例えば、基準在庫より減少した分だけ都度補充発注するという考え方がある。基本的には「補充点方式」として正しいものだ。だが、この方法は発注量が増減しやすい欠点がある。増減する発注量をそのまま輸送すれば、トラック台数などの輸送負荷が変動する。さらに輸送先の在庫が不必要な時点で過剰になることがある。  需要量が曜日に左右される商品を例にとれば顕著だ。土日曜に需要が多い商品は、翌週初めに補充のための輸送が大きくなり、納入先では月曜や火曜に在庫量が最大になる。週末までほぼ1週間店舗で在庫されることになり、店舗在庫の負担は大きくなる。  ある食品メーカーでは、補充点方式や輸送会社との契約方法を前提条件と考えてきたが、発注分を即座に輸送することをやめ、週末発注量とキャンペーン販売数量の合計を各曜日に平準化し、輸送量の曜日変動を安定させた。さらに自社工場との連携を充実すれば、輸送部門では前提条件とされていた日別の生産量とも連携させ、生産の安定化も図ることができる。  自社内での部門間の関係、物流会社との条件変更など、前提条件と思われていたものを両者にとってより効率的な方法に変えていくことが重要だ。DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代と言って、現状をそのまま電子化、システム化したのでは効果は少ない。特に食品関係では、将来の容器の脱石油化による輸送・保存方法の変化、世界の食料事情や政治情勢を考えての原料調達のサプライチェーンの変化、食品宅配のような販売方法の変化も考慮に入れた、レジリエントな食品物流の設計も目指さねばならない。  物流システムの制御可能な要素は拡大していくだろう。システムをより高いレベルから見れば、物流システムの環境は変わるし、変えられる。 (略歴)  ますい・ただゆき=1945年6月11日生まれ、77歳。和歌山県出身。早大理工卒(工学博士)。武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部教授、環境情報学部教授を経て2013年名誉教授。専門は経営工学、環境ロジスティクスなど。 【特集・コラム】 1●【この人】新たな産業の対応目指し 航空貨物運送協会 岡本 宏行 会長  就任時の感想は「うれしかった」。6月の総会で鳥居伸年前会長(現副会長)からバトンを受けた。現在は、郵船ロジスティクス代表取締役副社長と航空貨物運送協会(JAFA)会長の2枚の名刺を持つ。客先で渡すと、今まで以上に航空貨物分野の話が広がる。  長年取り組んできた安全・教育訓練・物流効率化の3本柱を推進していく。最も重視するのが輸送の安全。近年はEV(電気自動車)関連でリチウム電池の輸送が増加しており、無申告搬入などを見落としたりすると、リスクが高まる。発火にもつながり得る危険物を安全に輸送するため、従来にも増して会員企業への研修を充実させる。  業界の発展を見据え、新たな産業に係る需要の取り込みで国に働き掛ける。特に成長分野として注目するのが半導体。以前、自社の仕事で熊本県を訪れた際、2024年稼働予定の台湾積体電路製造や関連する国内外の主要メーカーが進出を決定し、活気ある工場建設現場を自分の目で見て、さらなる成長の可能性を実感した。  新型コロナウイルスの感染に伴うサプライチェーンの混乱の影響が残り、世界的な半導体不足が続くが、製造・流通が正常化すれば必ず特需が起こると確信。「JAFAとして事業のプラットフォーム(基盤)を整備し、会員各社が特需に対応できるよう、支援することも重要な役割に」。  趣味は高校野球観戦。全国各地で文武両道を掲げる高校を広く応援する。将来、仕事を引退後は、ひいきの高校が出る地区予選を訪れ、各試合の内容をスコアブックに記録しつつ観戦し、試合終了後もお酒を飲みながら振り返る「旅」を続けるのが夢。 2●【社長インタビュー】50年のバトンを継承 倉庫部門の拡大に重点 熊本交通運輸 住永 富司 社長  6月に住永金司会長からバトンを受け継いだ熊本交通運輸(本社・熊本県益城町)の住永富司社長。創立50周年の節目での就任となった。燃料価格の高騰や人手不足などの経営課題に直面する中、住永社長は「物流は面白い。アイデア次第で新しい仕事ができる。積極的に挑戦していく」と話す。  ―就任の感想を。  住永 当初は「役職が社長に変わった」というのが正直な心境だった。だが、社長は会社のあらゆる事柄の判断を求められる。緊張感を持って仕事をしている。就任直後から、取引先へのあいさつ回りなど、忙しい日程が続いている。  ―社長職の重みは。  住永 改めて大変な役割だと感じている。現・会長は法人設立から半世紀にわたってリーダーシップを発揮し、成長を果たしてきた。同じ立ち居振る舞いはできない。だが、不安は感じていない。  ―これまでさまざまな仕事を経験。  住永 高校卒業後、地元の九州産交運輸に入社し、荷役作業員やドライバーを経験した。専門学校にも通い情報処理やパソコンの応用を勉強し、熊本交通運輸に入社。現場勤務を皮切りに荷役作業や建材、青果物などを運ぶ仕事をした。営業も担当し、顧客の顔を覚えることに努めてきた。  ―物流は面白い。  住永 業界に足を踏み入れた頃は、他の産業で働きたいという思いもあったが、仕事をしているうちに物流は面白いと考えるようになった。荷物がある限り物流はなくならない。発想次第で、いろんなことができる可能性がある。  ―現場経験が役立つ。  住永 そうだ。事務所にいては現場のことは分からない。例えば、働きやすい環境をどこまで整備できるかがポイントと考えている。自身も経験したが、体に大きな負担がかかる作業はあり、改善が欠かせない。(私が)現場で勤務していた頃から働き続けてくれている従業員も多く、コミュニケーションは取りやすい。従業員との連携を重視した経営を展開する。  ―現在の経営状況は。  住永 新型コロナウイルス感染拡大の影響で荷量の増減はあったが、安定的に推移している。問題は燃料価格の高騰。高止まりが続き、業績にどの程度の影響が及ぶのか、懸念している。 新サービスの構築にも挑戦  ―今後の戦略は。  住永 倉庫部門を重点的に拡大する。来年には新拠点を1棟計画している。保管業務を新規に獲得できれば、付随して輸送や流通加工など新しい仕事も期待できる。新しい企業スローガン「運ぶをあたらしく」の下、信頼関係を築いた顧客のニーズを基に新しいサービスの構築にも挑戦していく。  ―効率化、省力化を進める。  住永 一例が自動倉庫の活用で、少ない人数で保管業務を行えるようになる。AIの技術を活用した自動配車システムの導入も視野に入れる。既に一部拠点で試験運用し、成果が出ている。ダブル連結トラックも増やし、輸送力を強化したい。 働きやすい環境整備に注力  ―採用も重視する。  住永 機器やシステムで生産性を高めても作業は完結しない。今後は人材の確保が一段と難しくなるとみており、若い人材を中心に採用を進めることが不可欠。また、既存の従業員が長く働きたいと思える職場をつくらなくてはならない。待遇の充実や労働環境の改善、福利厚生の拡充など、すぐ実現できないこともあるが、できることから進めたい。子どもが生まれる従業員を支援するため、男女共に育児休暇を取得しやすい環境を整えることもその一つだ。 記者席 遊びと仕事の両立を  「プライベートと仕事は分ける」をモットーとする。遊ぶときは遊び、働くときはしっかりと集中する。両立できるライフスタイルを追求している。  会社づくりにもその考え方を反映させていく。「仕事だけで一生を終えたくはない。従業員にもそうなってもらいたくない」。例えば、家族や友人と楽しむ時間を確保することが重要とする。会社では、さまざまな人がそれぞれの目的を持って働いている。「お金を必要としているなら、しっかり稼いで夢や目標を達成してもらいたい」  趣味は格闘技。中学では柔道、高校ではボクシングに打ち込んだ。「男として強くなりたいという思いがあった」。現在は観戦を楽しみにしている。